【鎌倉座談会】クリエイティブ・チョイス!―カシコいあなたの「選択肢をつくる技術」

(初出:月刊誌「ビジネスデータ」2009年7月号(日本実業出版社、予約購読制)。許可を得て転載しています)

守りの論理的思考、攻めの直感――
直感力を高める

堀内 個人でも組織でも、誰もが日々さまざまな選択を迫られています。選択とは典型的には二者択一ですが、よくよく考えてみると複数の選択肢がある場合がほとんど。二者択一の二元論的思考を乗り越え、選択肢をみずから創造する姿勢こそ、普遍的に求められる思考と行動のスタイルでしょう。今日は私たちの経験も交えながら「クリエイティブ・チョイス(創造的な選択とについて語り、それぞれの考えを共有したいと思います。
 まず、『地頭力を鍛える』の著者である細谷さんは『クリエイティブ・チョイス』をどう読み解いてくださっていますか。

細谷 ロジカルシンキングが流行っていますが、ロジカルというのはあたり前のことをあたり前に説明するだけで、それがむずかしくもあるのですが、じつはそこからは何も生まれません。だから、ロジカル自体は「守り」です。
 堀内さんの『クリエイティブ・チョイス』と私の『地頭力』に共通するのは、直感の重要性ですね。創造的であるためには、論理に加えてプラスαの直感が重要だと思います。私はこのことを「守りの論理的思考、攻めの直感」と言っています。

堀内 直感と言うとつねに新しいサービスと価値を提供しつづけている面白法人カヤックの柳澤さんに聞いてみたくなりますが……。

柳澤 社名のとおりおもしろいことを楽しみながら創造していくことが仕事なので、「あらゆることを想定したアイデア出し」はよくやりますね。

堀内 そのなかで妥当な選択肢や方針などをしぼっていく。

柳澤 ええ。アイデアを出すのにも、そのアイデアのよしあしを判断するのにも「直感」は大事ですね。誰かがあるプロジェクトを立ち上げたいと言ったとき、「それはないな」と直感的に感じたら、そこから先の数字的なシミュレーションなどは耳に入ってこない。数字はいくらでも論理を組み立てられますからね。

吉川 うち(博報堂生活総合研究所)の打ち合わせでも、「直感的につまらないもの」ははずしますね、研究所なのに(笑)。「深く考えてみよう」などとは誰も言いません。そういうアイデアはだんだん話題にしなくなるだけです。自分が出したアイデアでその冷たい反応を受けることもありますが、それはそれで学びますよね。とにかく、そのテーブルを乗り越えていかないとアウトプットさせてもらえないのだから、しかたがない。

柳澤 たしかに、誰にでも「はずれること」は絶対あって、はずれた経験がないかぎり、直感力も上がらないですよね。ですから、「恥ずかしがらず、格好つけず、失敗を恐れずにどんどんアイデアを出すこと」。それによって徐々に直感の精度を上げていくしかないのでしょう。

「思い」を突きつめると
「個別解」が「汎用解」になる

堀内 僕らはそうやって立てられた「問い」に対して直感でいろいろな案や解を出していきます。ただ、細谷さんの場合はコンサルタントとして得意先企業に提案をするときに、自分の直感だけで「これがいい」とは言えない状況もあると思うのですが、そういうときは直感をいわばどうやって「正当化」しているんでしょうか。

細谷 そうですね。たとえば、選択肢のオプションの仮説を立てるのは純粋な論理思考だけではできません。そこには「直感」が入る余地は大きいですし、決まったことを実行する段階では「これがいい」という「思い入れ」というのも最終的な成否には大きく影響するのではないでしょうか。

吉川 そもそもアイデアは「あることに対する思いつき」だから個別解ですよね。だけど、他の人にもいいと思われる理由があるとすれば、それは「汎用性をもっている」ということ。すると、「これは効きそうだ、よさそうだ」と全員に評価が広がっていく。

堀内 そうですね、起業のコンテストで高得点をとる人のアイデアの原点も個別解、個人的テーマ、自分のことなんですよね。個人的なテーマだけど、それが突きつめて考えてあるからこそ共感を呼ぶ。
 それは「我がことを突き詰めて、皆のことまで突き抜ける」「個別解が汎用解になる」ということです。そうなると、自分のアイデアを捨てて、「その案で一緒に起業しようじゃないか」という賛同者まで現われたりする。まず直感があって、それを突きつめて論理を組み立てるというように、論理と直感のペアで考える。そして、そこまで突きつめたくなるようなテーマをどうやってみつけるかも個人にとって非常に大きいですよね。

細谷 それは個人的な思い入れだったり?

柳澤 「それで生きている」ということでしょうか。僕は「できることをやっていれば、自然にそれが自分の選択肢になる」と感じていて、イチローしかり、天才であればあるほど「できることをやってきただけ」と言いますよね。
 「やりたいことをやった」ではなく、やりたいことはだいたいズレているから、「できることをやっていればいい」と思う。

堀内 そうですね。「いま上手にできていることを突きつめていけば、自然にツキがまわってくる」ということもありますね。ヘタなことを克服しようとしても、いい選択肢がなかなか自分の前に現われない。自分がやっていること、やりたいことへの「思い」がないと、そこまでしつこく考え抜く必要性も、それに費やすエネルギーも生まれません。逆説的な論理ですね。

目的から考えおろせば
手段は見えてくる

柳澤 ところで、「クリエイティブ・チョイス」は誰もがしていることなんでしょうか。

堀内 転職、就職、結婚など人生の大きなイベントでは誰もが経験しているはずです。あとは突然の病や、肉親の不幸などによって自分の意思とは関係なく選択を迫られるケースもありますね。そういった場合はよくあとで振り返ったときに、「あれがそのときの自分にできる最善の策だった」というように自分の選択を正当化します。「人生の物語」はときに書きなおしをして、次の選択肢をつくっていかなけれ

ば先に進むことができないからです。そのように「選択のきっかけや結果がどうであれ、自分なりの筋を通し、そのうえで次のステップを踏もうとする」、そのことがクリエイティブだと思います。

細谷 奥が深い話ですね。……ビジネスマンで見ると、職種として営業マンは日々、クリエイティブ・チョイスですよね。
 たとえば、お客さまのニーズが自社製品のラインナップになかったとき、他社にそういうアイテムがあったとして、「当社にはそれはありません。だけどいいものがあります。それはコレです」と提案して、そのお客さまとのつながりを保てるか。お客さまに自社製品を「高い!」と言われたとき、では「値引きします」ではなくて、きちんと自社製品のよさを説明して「だからこそ他社以上の値段なんです」と逆に売りこむことができるか。そういうクリエイティブ・チョイスができる営業マンこそ、デキる営業マンでしょう。

堀内 顧客の目的をいかに手持ちの手段を組み合わせて実現するか。「目的から考えおろせば手段が見えてくる」ということですね。

柳澤 うちは全員が社長の立場で考える「ぜんいん社長合宿」というイベントをやっています。社長の目線で考えることには社員目線で考えるよりも高い目的意識があるはずなので、そこを意識することで仕事をより目的に即してとらえることができる気がする。「会社ごとが我がことになる」という効果も生まれて、全体のモチベーションも上がります。

吉川 「そもそもの目的に立ちかえること」は、その仕事にとっても個人にとっても、いい影響がありますね。
堀内 あたり前のことだけに、つい忘れてしまうことも多いですからね。「毎朝タスクリストをつくりながら目的を振り返る」といった意図的なしかけもいいかもしれない。

柳澤 ただ、経営理念を毎朝、唱える会社もありますが、そうすることで目的意識が高くなる反面、型にはまるというか、思考が柔軟でなくなっていく可能性もありますよね。僕らは「年に二回くらいの合宿で短い理念をていねいに語るぐらいがちょうどいいかな」ということでやっていますが、事業の内容やそこに属する人のタイプによってちょうどいいバランスがあると思います。

「自利利他」――社会の変容
人は新しい選択を求めている

吉川 当社の「生活者発想」という視点からクリエイティブ・チョイスについて感じるのは、「生活者が自分の利益のために利他的なことをする」という、非常にクリエイティブな行動をとりはじめているということです。
 たとえば、安心を三段階に分けると、第一に自分の安心を自分でどうつくるかという「自分定め」、第二は家族、仲間、地域社会など自分の周りの安心をどう確保するかという「周り固め」、第三は個人が世の中にどう働きかけて、世の中をどうよくしていけるかという「しくみなおし」なんですね。こんな世の中ですから、「第一や第二もままならない。そこで精いっぱい」という人もいますが、その前に「第三の安心の柱が揺らいでいると、いつまでたっても安心できないのではないか」という風潮が出てきた。
 それでみんながみんな被災地に支援活動に行くわけではないにしても、たとえばペットポトルのキャップを集めるとか、どうせ買うならチャリティ商品を買うとか、そういった変化が日常のちょっとしたことに現われてきていると思います。

堀内 たしかに、レジ袋じゃなくてエコバックを使うのもそうですね。生活者が日常の一つひとつの選択に社会性を感じている。

吉川 そうなんです。「あなたの身の周りで安心を感じるものを写真に撮って送ってください」という調査をしたのですが、そこで集まった一六○○枚ほどの写真を見ると、まさにそのエコバックだったり、家庭菜園だったり、自然環境が作品のジャンルとして最も多かったんですよ。その写真それぞれに安心の理由が書かれているんですが、さっきの家庭菜園の写真には「ちょっとでも自分でつくれば自給率が上がるから」と書かれていて、ごみ拾いボランティアを撮った写真には「身近なところがきれいだと安心するから」と書かれていたんです。

柳澤 セコムのマークとかはなかったんですか(笑)。

吉川 それもやっぱりあります(笑)。あとは、現実的にお金だったり、パソコンや本、本棚などの情報リソースだったり、さまざまあるんですが、でも環境に関わるものがすごく多い。生物としての危機を感じはじめているんじゃないかというくらい。そういう生活者の「自利利他」意識の最たるものが社会起業家やNPO、NGOの活動だと思うんです。

細谷 企業ではCSRといったかたちで現われて、その働きを増幅させることができる。

吉川 そうですよね。ところが、CSRが問われるなかで、本業からは連想しづらいような「木を植える活動」や「海をきれいにする活動」をしています、という企業もあって、でもそれはあまり生活者の共感を得られていないような気がするんですよね。それよりも、生活者が細々とやっているような自利利他の小さな芽を企業の技術力や流通網を使って育てていくほうがいいんじゃないか。生活者と企業がそのような関係をきずいていくほうが、両者にとってよりクリエイティブなことではないかと思いますね。

堀内 1990年代中盤に組織研究で著名なチャールズ・ハンディという人が「適正な自己中心性」ということを言っていて、「自分の利益だけを追求していると、とんでもないことになる。自分の利が社会の利にもなるような全体像をもって活動していくべきだ」と言っているんですよね。

吉川 「暴走する資本主義」を危倶していたわけですよね。でも、「企業は社会の公器である」という発想や生活者の「お互いさま」という気持ちはまだ残っている。ですから、それを新しいかたちで活かせる部分はあるはずです。ただ、実際にやろうとすると「私たちは私たちでやりますから」というNPOもある。「企業がからむことで、活動が自分たちの考えている目的と違うところに行ってしまうかもしれない」というのが理由でしょうけど、結局は「企業VS自分たち」という二元論の考え方での選択になってしまうんです。企業と生活者の相互作用というのは、現実には、まだまだ成熟していない部分ですね。

なぜ、鎌倉に?
生活環境のクリエイティブ・チョイス

堀内 最後に、せっかく四人とも鎌倉に暮らし、こうして鎌倉(面白法人カヤック社内)で座談会をしているので、そういった生活環境とクリエイティブ・チョイスということにも少し触れておきたいと思います。生活環境のチョイスを考えると、昔は会社によって生活環境が決まっていたのが、いまは「東京本社でなくてもいい。どの街に住むかは個人の選択の自由だ」という考え方に変わってきています。

細谷 たしかに昔は「鎌倉に住んで、通勤に一時間半かけている」と言うと「かわいそうに、大変ですね」って言われたものですが、いまは何かこだわりがあってぜいたくをしているようにとられますね。僕の場合はここが出身なのでチョイスというよりはなりゆきですが(笑)。
 一方で、逆の傾向として、都会のど真ん中に住む人もいます。

吉川 選べるぶんだけ二極化してきたということでしょうね。

堀内 僕は子育て環境を優先しました。リチャード・フロリダの『クリエイティブ資本論』という本に、生活の場を選べるようになった労働者が集積するシリコンバレー、シアトル、ボストンやオースチンには、ある共通した傾向があると書かれていました。多様性を許容するとか、都会と自然のバランスがいいとか……。やはり「場の力」というのはありますよね。

柳澤 街としては「こういう人を住民として集めたい」ということが感じられないところはダメですね。僕はサーフィンをするので海があることが一つの条件ですが、それは個人の条件で、鎌倉についていえば、「街の雰囲気や民度の高さ」が住んでいて心地よい面はあります。

堀内 鎌倉の場合は、景観条例が厳しいので大きなスーパーや高い建物が建てられないんですが、その制約がかえって街と人とのクリエイティブ・チョイスにつながり、それが街の個性につながっていると思います。

吉川 僕があるとき気づいたのは、通勤時間をどうとらえるかということですね。一週間は二四時間×七で一六八時間、そのなかで通勤時間に僕は往復三時間半かけているので三・五時間×五で一七・五時間。つまり一週間の約一○%が通勤にかける時間なんです。相当な時間です。
 これを単に移動時間ととらえたらムダですが、「本を読んだりCDを聞いたりする自分の自由な時間が一○%も用意されている」と考えたらすごくポジティブですよね。個人的にはその時間を使ってのインプットが仕事のアウトプットに活かされている。それと、この距離と時間が「仕事モード」と「家モード」を切り替えるちょうどいいリズムになっている、と感じます。


堀内 浩二(ほりうち こうじ)
㈱アーキット代表。エ学修士(早稲田大学大学院理工学研究科)。意思決定力を強化する研修・教育事業に注力。日米のJVにて技術・事業開発を担当し、ベンチャー企業の経営支援や事業評価なども手がける。著書に『「リスト化」仕事術』など。

細谷 功(ほそや いさお)
ザガティーコンサルティング㈱ディレクター。ビジネスコンサルタント。東京大学を卒業後、東芝を経て同社に入社。会社のしくみ(業務プロセス、組織、IT)の改革にクライアント企業と取り組む。『「地頭力」を鍛える』など。

柳澤 大輔(やなさわ だいすけ)
面白法人カヤック代表。慶應義塾大学卒業後、サラリーマン生活を経て、98年、学生時代の友人3人で同社を設立。「つくる人を増やす」という理念のもと、200以上のサービスを送りだしている。著書に『面白法人カヤック会社案内』など。

吉川 昌孝(よしかわ まさたか)
博報堂生活総合研究所上席研究員。慶應義塾大学卒業後、博報堂に入社。マーケティングプランナーとして商品開発業務、マーケティング戦略立案業務、同社フォーサイトコンサルタントとして未来シナリオ創造ワークショッブを担当。04年より現職。

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